DEIとは何か?定義や実践などわかりやすく解説!
DEIとは何か — 定義と背景
近年、企業や教育機関を中心に「DEI」という言葉が急速に注目を集めています。
この言葉は、Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の3つの価値観を統合した概念であり、単なるスローガンにとどまらず、組織の持続可能な成長や社会全体の発展を促す重要な指針となっています。
この章では、DEIの各構成要素の定義を明確にし、従来のD&Iとの違いや進化の過程、そして現代においてDEIが必要とされる社会的背景を詳しく解説します。
DEIの構成要素:Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)
まず、「Diversity(多様性)」とは、性別、年齢、人種、国籍、宗教、性的指向、障がいの有無など、人が持つあらゆる違いを肯定的に受け入れる姿勢を意味します。
多様性は、単に異なる人々を受け入れるというだけでなく、それぞれの違いが組織にとって価値であるという認識に基づいています。
次に「Equity(公平性)」は、個々の違いに応じて必要な支援や配慮を行うことで、機会の平等ではなく、結果としての公正を実現する考え方です。
これは「Equality(平等)」とは異なり、すべての人に同じ条件を与えるのではなく、状況に応じて適切な支援を行うことが求められます。
最後に「Inclusion(包括性)」は、組織やコミュニティに属するすべての人が、安心して意見を述べ、積極的に参加できる環境を築くことを指します。
多様性が「人の違い」に着目するのに対し、包括性は「行動や組織文化」に焦点を当てます。
D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)からDEIへの進化
従来、日本でも「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」の取り組みが推進されてきましたが、近年ではそこに「Equity(公平性)」が加わったDEIという枠組みが重視されるようになってきました。
D&Iが主に「多様な人材を受け入れ、活躍の場を与える」ことに焦点を当てていたのに対し、DEIは個々のバックグラウンドに応じた支援や制度設計の必要性を強調します。
この変化は、単なる雇用機会の提供にとどまらず、「公平に力を発揮できる構造をいかに組織に組み込むか」という問いへの意識の高まりに由来しています。
特にアメリカを中心に、歴史的・社会的に不利益を被ってきた集団への配慮や構造的な格差の是正が求められる中で、DEIはより実効性のある枠組みとして受け入れられています。
DEIが注目される背景:グローバル化、労働人口の多様化、社会的要請の高まり
DEIが近年急速に注目を集めている背景には、いくつかの社会的・経済的要因があります。
まず、グローバル化に伴って、国籍・文化・宗教など異なる価値観を持つ人々と共に働く場面が日常化しました。
この多様性を組織の強みに変えるには、単なる受容ではなく、組織として意識的に多様性と包括性を尊重する姿勢が不可欠です。
また、日本国内でも少子高齢化による労働人口の減少が進んでおり、女性、高齢者、外国人、障がい者など、従来は労働市場の周縁に置かれてきた人々の活躍がますます求められるようになっています。
こうした背景から、従業員一人ひとりの個性を尊重し、活かす仕組みとしてのDEIは、経営戦略の中核として位置づけられるようになっています。
さらに、SDGsやESG投資の広がりも、DEIへの関心を高める要因となっています。
投資家や消費者は企業に対して社会的責任を果たすことを求めており、その文脈でDEIは重要な評価軸の一つとされているのです。
DEIが企業に与えるメリット
企業がDEI(多様性・公平性・包括性)を戦略的に推進することは、単に社会的責任を果たすだけでなく、経営上の大きな利点につながります。
多様な人材を受け入れ、彼らの能力を最大限に活かす組織は、変化の激しい現代においても柔軟に対応し、競争力を維持・強化することができます。
ここでは、DEIの導入がもたらす主要なビジネスメリットについて詳しく解説します。
イノベーションの促進と新しいアイデアの創出
多様なバックグラウンドや価値観を持つ人々が集まることで、問題解決や商品開発において新たな視点や斬新なアイデアが生まれやすくなります。
組織内に多様な声があることは、思考の幅を広げ、革新的な解決策の創出に直結します。
特にグローバル市場を相手にする企業にとっては、多文化的なチーム構成が製品の現地適応やマーケティングの成功にもつながります。
優秀な人材の確保と定着率の向上
現代の求職者は、給与や待遇だけでなく、職場環境や企業の価値観にも注目しています。
DEIを実践する企業は、性別や国籍、ライフスタイルに関係なく働きやすい職場を提供しており、多様な人材にとって「選ばれる会社」になることができます。
さらに、誰もが尊重されていると感じられる環境は、従業員の定着率やモチベーションの向上にも寄与します。
企業評価の向上とブランドイメージの強化
消費者や取引先、投資家などのステークホルダーは、企業が社会的責任をどのように果たしているかを重視しています。
DEIへの積極的な取り組みは、社会的な信頼を得る上での強力な武器となります。
DEIを推進する企業は、倫理的かつ時代の要請に応えた組織として、高く評価される傾向にあります。
ESG投資やサステナビリティ報告においても、DEIは重要な指標として組み込まれており、資金調達や株主対応にも好影響を及ぼします。
従業員エンゲージメントの向上と生産性の向上
誰もが安心して意見を言える職場では、従業員の心理的安全性が高まり、積極的に業務に参加する意欲が高まります。
このような環境ではチーム内の連携もスムーズになり、結果として生産性や業績の向上につながることが多くの調査で実証されています。
従業員が「この組織に貢献したい」と感じるエンゲージメントの高い企業は、離職率も低く、長期的な組織力の強化にもつながります。
DEI推進のための基本ステップ
DEI(多様性・公平性・包括性)を組織内で実際に根付かせるには、理念の共有だけでなく、制度設計や行動レベルでの実践が必要不可欠です。
単なるスローガンにとどまらず、組織の文化や仕組みとして定着させるためには、段階的で計画的なステップが求められます。
この章では、企業や団体がDEIを推進するための基本的な流れと、それぞれのフェーズでの留意点について詳しく解説します。
DEI推進方針の明確化と経営層のコミットメント
DEIを組織に定着させる第一歩は、明確なビジョンと方針を打ち出すことです。
トップマネジメントの強い意思と行動が、全社的なDEIの推進力になります。
経営層が率先してDEIの意義を語り、施策にコミットすることで、従業員の理解と協力を得やすくなります。
また、その方針は社内外に発信することで、企業の姿勢として広く共有され、採用やブランド価値の向上にもつながります。
従業員へのDEI教育と意識改革
DEIの成功には、現場で働く一人ひとりの意識変革が不可欠です。
無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)に気づき、多様な価値観を尊重する土壌を育てるために、定期的な研修やワークショップが重要です。
単なる知識のインプットではなく、実際の行動につながるような参加型の教育プログラムが効果的です。
管理職にはリーダーシップ研修を通じて、多様な部下へのマネジメント力を高めるサポートも必要です。
職場環境の整備と制度の見直し
多様な人材が働きやすく能力を発揮できるようにするためには、物理的・制度的な環境整備が求められます。
例えば、在宅勤務制度やフレックスタイム、短時間正社員制度、育児・介護支援制度、LGBTQへの配慮を含む福利厚生などが挙げられます。
制度はあっても使いづらい環境では意味がありません。柔軟性と実効性を重視した設計が求められます。
また、障がい者や外国籍社員への合理的配慮や言語支援など、個別のニーズに応じた対応も不可欠です。
公平な評価制度とコミュニケーションの促進
誰もが公平に評価され、成長の機会を得られる制度は、DEIの基盤となります。
性別や年齢、国籍などに関係なく、業績や能力に応じた評価が行われることが重要です。
また、日々の業務において、メンバー同士が安心して意見を言い合えるようなコミュニケーションの風土づくりも欠かせません。
オープンでフラットな対話の文化が、包括的な職場の醸成につながります。
評価制度やコミュニケーションのあり方を見直すことは、DEIを持続可能な取り組みとするための鍵です。
成功事例に学ぶDEIの実践
理論や理念としてのDEIを理解することは出発点にすぎません。
実際に企業がどのようにして多様性・公平性・包括性を自社の文化に落とし込み、制度や行動にまで落とし込んでいるのかを知ることは、今後の実践にとって非常に重要です。
ここでは、国内外の企業が取り組んでいる具体的なDEI施策を取り上げ、それぞれの背景や成果、成功要因を詳しく解説します。
資生堂:理念と制度の両輪で女性活躍を牽引
日本を代表する化粧品メーカー資生堂は、DEI推進において先進的な取り組みを行ってきた企業の一つです。
創業以来の理念である「美しさとは多様性に根差すもの」という思想に基づき、全社的にダイバーシティ経営を展開しています。
特に注目されるのは女性活躍の推進で、管理職に占める女性比率は日本企業としては高水準にあり、国内では20%超、海外では50%近くに達しています。
制度面では、キャリアと育児の両立を支援する柔軟な勤務制度や、育休復職率を高める「育児サポートガイド」、男性社員にも積極的に育休取得を促す取り組みなどが導入されています。
単に制度を整備するだけでなく、「誰もが活躍できる環境づくり」を軸にした運用がなされている点が成功の鍵となっています。
また、LGBTQへの理解促進のための研修や、同性パートナーを配偶者として扱う福利厚生制度も整備されており、性自認や性的指向に関係なく自分らしく働ける職場づくりが進められています。
ジョンソン・エンド・ジョンソン:グローバル視点での包括的施策
アメリカの医薬・ヘルスケア大手ジョンソン・エンド・ジョンソンは、全世界の社員を対象とした包括的なDEI戦略を展開しています。
同社では、性別・人種・年齢・宗教・障がい・LGBTQ・世代間の違いといった多様性を尊重し、インクルーシブな職場文化を醸成するために「Diversity, Equity & Inclusion Impact Review」を毎年実施しています。
その中核には、各属性ごとの「社員リソースグループ(ERG)」があり、社員が自発的にコミュニティを形成し、啓発活動やイベントの企画・運営を通じて社内文化を変えていく取り組みが行われています。
これにより、社員一人ひとりが自分の価値観を職場で表現しながら、相互理解と協力を深める仕組みが整っています。
また、障がい者雇用やニューロダイバージェント(神経多様性)への配慮、ジェンダー平等の推進なども積極的に取り組んでおり、世界中の拠点で文化や法制度の違いを乗り越えたDEI施策を展開しています。
インフキュリオン:スタートアップが挑むダイバーシティ
国内のフィンテック企業インフキュリオンは、スタートアップ企業ながらDEIに積極的に取り組むことで注目を集めています。
同社は、社員の約2割が外国籍という環境の中で、言語や文化の壁を乗り越えるための多様な工夫を導入しています。
たとえば、社内公用語は日本語でありながらも、英語の補助資料や日英バイリンガルの研修資料を用意し、コミュニケーションバリアを減らす取り組みが行われています。
また、マネジメント層への女性登用を積極的に行い、性別による役職や待遇の格差をなくすための明確な人事評価制度も設けています。
従来の日本企業では難しいとされていた「文化的多様性と制度的公平性の両立」を、組織の柔軟性を活かして実現しています。
インフキュリオンのような成長企業がDEIを経営の中核に据えることで、他の中小企業にも大きな刺激を与えています。
DEI実践の共通点と学び
これらの企業に共通して見られる特徴は、以下の3点に集約されます。
まず第一に、トップマネジメントがDEIの重要性を深く理解し、自ら発信し続けていること。
第二に、従業員を巻き込んだ草の根的な活動(社員リソースグループやワークショップ)を制度として支援していること。
そして第三に、目に見える成果(数値目標や制度改革)を明示し、社内外に透明性を持って進捗を報告していることです。
DEIは「一度やって終わり」ではなく、組織文化として定着させるために継続的な取組みが求められます。
成功事例に学びながら、自社の状況に応じた現実的な施策を導入していくことが、DEI推進の第一歩となるでしょう。
DEI推進における課題とその克服方法
DEI(多様性・公平性・包括性)は、組織の持続的成長にとって重要な価値である一方で、その導入と定着にはさまざまな課題が伴います。
理念や目標を掲げるだけでは、実効性のある変化は生まれません。
ここでは、企業や組織がDEI推進の過程で直面しやすい主な課題を整理し、それぞれに対する具体的な克服方法を解説します。
形骸化のリスクと継続的な取り組みの重要性
DEIの推進は、一度施策を打ち出しただけでは意味がありません。
制度やキャンペーンを整備したにもかかわらず、現場に浸透しなかったり、実態が伴わなかったりするケースは少なくありません。
特に「表面的なアピール」や「目標未達の放置」は、従業員の不信感を招き、逆効果となるリスクがあります。
これを防ぐには、経営陣の明確なリーダーシップと、DEIを評価指標として明文化し、継続的に成果を測る体制が求められます。
無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)への対処
人は誰しも、無意識のうちに偏見や先入観を持ってしまう傾向があります。
これらのバイアスは、採用、昇進、評価、日常のコミュニケーションなど、さまざまな場面で不公平な判断につながります。
「意識していない偏見」こそが、組織内での格差や排除を生み出す大きな原因の一つです。
バイアスを減らすには、定期的な研修やフィードバック制度の導入、他者視点を促すワークショップなどの教育的アプローチが有効です。
定量的な目標設定と効果測定の必要性
DEIの取り組みは、その成果が見えにくく、評価が難しいとされます。
そのため、目標を「数値化」しないまま取り組みが行き詰まるケースもあります。
たとえば「女性管理職を◯年までに◯%にする」「育休取得率を◯%まで引き上げる」などのKPIを設定し、進捗を可視化することが重要です。
明確な数値目標があることで、組織内の優先順位が上がり、関係者のコミットメントも強まります。
また、従業員満足度調査やエンゲージメントスコアなどの指標も併用することで、多面的な評価が可能となります。
従業員の多様なニーズへの対応と柔軟な制度設計
DEIの本質は、すべての人が「自分らしく、安心して働ける」環境をつくることにあります。
しかし現実には、家庭と仕事の両立、身体的・精神的な障がい、文化・宗教的背景、性的指向など、個々の事情に応じた配慮が必要となる場面が数多くあります。
これに対応するには、画一的な制度では不十分であり、柔軟かつ個別対応可能な体制が求められます。
たとえば、出勤時間の調整、テレワークの活用、休暇取得の柔軟化、専用相談窓口の設置などが考えられます。
多様なニーズを吸い上げ、制度に反映させるためには、従業員との継続的な対話とフィードバックの仕組みが欠かせません。
一方で、すべてに応えようとすると混乱が生じるため、全体方針と個別対応のバランスをとることが求められます。
中小企業におけるDEIの実践
DEI(多様性・公平性・包括性)の推進は、大企業だけのものではありません。
むしろ、日本の企業の大多数を占める中小企業においても、限られた人材を最大限に活かし、地域や顧客との信頼関係を構築するために、DEIの視点は極めて重要です。
この章では、中小企業が直面する課題を踏まえながら、どのようにDEIを取り入れ、現場レベルで実践していけるのかを具体的に考察します。
中小企業がDEIに取り組む意義とメリット
中小企業は従業員の数が限られている分、ひとり一人の貢献が企業全体の成長に直結します。
そのため、多様な人材が安心して能力を発揮できる環境を整えることは、生産性や従業員満足度の向上に大きく寄与します。
人材不足に悩む中小企業こそ、年齢・性別・国籍・障がいの有無を問わず、全ての人を戦力として活かす視点が必要です。
また、働きやすい職場は求人への応募数を増やし、離職率の低下にもつながります。
リソースの制約を乗り越えるための工夫
中小企業にとって、DEI推進の最大のハードルは「人手」や「予算」の制約です。
専門部署がない、研修費用を確保しづらいといった声も多く聞かれます。
しかし、必ずしも高額なプログラムや制度を導入しなければならないわけではありません。
小さな改善を積み重ね、現場の実情に即した取り組みを柔軟に行うことが、成功への鍵となります。
たとえば、役職者向けに短時間のDEI研修をオンラインで実施したり、外国人従業員向けに母国語の案内資料を用意したりといった低コストの工夫が可能です。
また、地域の外部団体や行政機関、NPOとの連携を通じて、ノウハウや支援を得ることも効果的です。
中小企業庁や自治体の助成制度、商工会議所などが提供するセミナーや相談窓口を活用することで、社内での負担を最小限に抑えつつ、取り組みを進めることができます。
地域社会との連携による多様性の促進
中小企業は、大企業以上に地域との結びつきが強く、地域住民や行政、学校などと密接な関係を築いています。
この特性を活かして、地域に根ざした多様性推進を行うことも有効です。
たとえば、地元の外国人住民を雇用したり、障がい者施設と提携して作業を委託したり、地域の多様な人々と協働することが、企業の社会的信頼を高めるだけでなく、事業の幅を広げる契機にもなります。
地域に開かれた企業文化を育むことは、顧客や取引先との関係強化にもつながり、中長期的な経営の安定にも寄与します。
また、地元の学校や教育機関と連携し、職業体験やDEI教育の場を提供することは、次世代への貢献にもなり、企業ブランディングの強化にもつながるでしょう。
中小企業ならではのDEI成功事例
たとえば、ある製造業の中小企業では、定年退職後の再雇用制度を拡充し、高齢者と若手社員の混成チームによる製品改善プロジェクトを立ち上げました。
それにより、熟練の技術と新しい発想が融合し、ヒット商品が生まれたという事例があります。
また、別のITベンチャーでは、外国籍社員と日本人社員がペアを組むことで語学と技術の双方を高め合う環境を整え、外国人の定着率が飛躍的に向上しました。
こうした実例は、「できることから始めるDEI」が中小企業でも十分に成果を上げられることを示しています。
重要なのは、「完璧を目指すのではなく、自社らしく、持続可能な形で多様性を活かす」ことです。
DEIの未来展望と持続可能な社会の実現
DEI(多様性・公平性・包括性)は、単なる一時的な社会トレンドではなく、企業・組織、そして社会全体の持続可能な発展を支える重要な概念です。
近年では、従来のDEIに加えて新たな価値観が加わり、より包括的で本質的なアプローチへと進化しています。
この章では、DEIの未来像と、今後どのような形で社会に貢献しうるのかを展望します。
DEIB・JEDIなど進化するDEIの概念
近年のDEIの議論では、基本の3要素(多様性・公平性・包括性)に加えて、新たなキーワードが注目されています。
その一つが「Belonging(帰属意識)」を加えたDEIBです。
Belongingとは、個人が組織やコミュニティの一員として「受け入れられている」「価値ある存在と認められている」と感じられる心理的状態を意味します。
どれだけ多様性があり、制度的な公平性が整っていても、個人が「ここに居場所がある」と実感できなければ、本当の意味でのインクルージョンは成立しません。
また、正義(Justice)を加えたJEDIという枠組みも登場しています。
これは、社会構造の中に存在する歴史的・制度的な不平等そのものに向き合い、積極的に是正していこうという考え方です。
JEDIの視点は、DEIを「組織の中の改善」にとどめず、より広い社会変革へとつなげる力を持っています。
テクノロジーの活用によるDEIの深化
AIやデータ分析技術の発展は、DEIの実践にも大きな可能性をもたらしています。
たとえば、採用活動においてAIが無意識のバイアスを排除し、公平な評価を支援する仕組みが導入され始めています。
また、従業員の意識調査やエンゲージメントデータの解析により、誰が、どのような場面で排除されているかを可視化することが可能になっています。
さらに、eラーニングやVRを活用した体験型の研修により、異なる立場の人々の視点をリアルに体験するプログラムも登場しています。
これにより、単なる知識のインプットではなく、感情面にも訴える深い理解が育まれています。
テクノロジーはDEIの「仕組み化」「習慣化」を強力にサポートするツールとなりつつあります。
社会全体の持続可能性とDEIの関係
SDGs(持続可能な開発目標)においても、「ジェンダー平等の実現」や「不平等の是正」といった項目が掲げられているように、DEIの理念は国際社会の目標と深く結びついています。
企業や教育機関だけでなく、行政、医療、メディアなどあらゆる分野において、DEIの視点は今後ますます求められることになるでしょう。
誰もが尊重され、安心して自分の力を発揮できる社会は、単に「優しい社会」ではなく、「強い社会」でもあります。
多様な人材が関わることで、困難な問題に対しても多角的なアプローチが可能になり、より柔軟で創造的な解決策が生まれるからです。
そのためには、組織の枠を超え、業界・地域・国境を越えてDEIの価値を共有し、共に前進するための連携が必要です。
教育や政策、法律の整備といったマクロな仕組みと、現場での地道な取り組みというミクロの活動が、両輪となって社会を前に進めていくでしょう。
DEIの本質と今後の方向性
DEIは単なる人材戦略でも、CSR(企業の社会的責任)の一部でもありません。
それは、人間一人ひとりの尊厳を認め、共に生きる社会を築くための基本的な哲学であり、未来に向けた投資でもあります。
今後、どのような技術革新や社会変化が起ころうとも、人と人とが共に働き、学び、生活する限り、DEIの重要性は決して失われることはありません。
企業や組織の大小を問わず、ひとつひとつの行動が社会の変革につながっていくことを忘れず、これからの時代にふさわしいDEIのあり方を、共に考え続けることが求められています。