ポーランドとはどんな国か?歴史や文化、観光などわかりやすく解説!
ポーランドの基本情報と地理
中央ヨーロッパに位置するポーランドは、歴史、文化、自然の豊かさを兼ね備えた国です。東西南北をさまざまな国に囲まれ、戦略的にも地理的にも重要な立場にあります。この章では、ポーランドの基本的な国情や地理的特性について、詳細に解説します。
位置、面積、人口、言語、宗教、通貨などの基本データ
ポーランドは東ヨーロッパと西ヨーロッパをつなぐ中央ヨーロッパの要衝に位置しています。北はバルト海に面し、西はドイツ、南はチェコおよびスロバキア、東はウクライナとベラルーシ、北東はリトアニアと国境を接しています。国土面積は約31万3,900平方キロメートルで、日本のおよそ5分の4に相当します。
人口はおよそ3,760万人(2023年推計)で、首都ワルシャワには約179万人が暮らしています。民族構成は非常に均質で、約97%がポーランド人です。公用語はポーランド語であり、ラテン文字を用いたスラブ語派に属する言語です。
宗教的にはカトリック教徒が圧倒的多数を占めており、国民生活や祝祭日にも深く影響を及ぼしています。通貨はズウォティ(Polski Złoty, PLN)であり、現在の為替レートでは1ズウォティはおよそ35~36円前後です。
平野と山岳、湖沼地帯などの地形
ポーランドの地形は多様性に富んでいますが、その大部分は氷河によって形成された平坦な地形です。国土の大半を占めるのは北ヨーロッパ平原の一部であり、特に中部から北部にかけては起伏の少ない大地が広がっています。
一方、南部国境沿いには山岳地帯が存在します。スデティ山脈およびカルパティア山脈が南部に広がり、最高峰はリシ山(標高2,503m)で、タトラ山地に位置します。この山岳地帯は登山やウィンタースポーツの拠点としても知られています。
また、ポーランド北東部には氷河の活動によって形成されたマズーリ湖水地方が広がっており、大小あわせて約3,000の湖が点在しています。
バルト海沿岸や主要都市の特徴
ポーランドは北部でバルト海に面しており、海岸線は約770kmに及びます。この地域には砂浜や砂丘が広がり、夏にはビーチリゾートとして多くの観光客が訪れます。代表的な港湾都市はグダンスク(Gdańsk)であり、商業、造船、文化の中心地として栄えています。
国内の主要都市は中央から南部に集中しており、首都ワルシャワは政治・経済の中心であり、国際空港や大企業の本社が集積しています。クラクフはかつての王都としての格式を保ち、歴史的建造物が多く世界遺産にも登録されています。
ヴロツワフ、ポズナン、ウッチといった都市も、それぞれが工業、学術、文化の拠点として独自の機能を果たしています。
四季の気候と地域による差異
ポーランドの気候は海洋性気候と大陸性気候の移行帯に位置しており、西からの湿った空気と東からの乾いた寒気がぶつかるため、変化に富んだ天候が特徴です。春は気温が急上昇し、花が咲き乱れる穏やかな季節ですが、4月にはまだ霜が降りる日もあります。
夏は日照時間が長く、気温は25~30℃まで上昇しますが、湿度も高めで夕立も多くなります。秋は晴天が続き、特に10月頃には紅葉が美しく、観光にも適した時期です。冬は地域によって気温差が大きく、内陸部や山間部では氷点下20℃以下になることもあります。
このように、地域によって気候条件は異なりますが、四季の変化がはっきりしており、自然のリズムに沿った生活様式が今も根付いています。
歴史から見るポーランドの歩み
ポーランドの歴史は、栄光と苦難、独立と侵略の繰り返しで成り立っています。古代から近代にかけての栄華、国家消滅の受難、そして近現代における自由と民主主義の再興まで、その歩みはヨーロッパの歴史全体に深く関わってきました。この章では、ポーランドの歴史を時代ごとに分けて詳しく解説します。
建国とキリスト教受容
ポーランドの国としての始まりは、西暦966年にピャスト朝の君主ミェシュコ1世がキリスト教を受容したことにさかのぼります。この年は「ポーランドの洗礼」と呼ばれ、国家の起源として国史上きわめて重要な出来事です。ミェシュコ1世はローマ・カトリック教会の加護の下に統治を強化し、後の国家形成の基礎を築きました。
その子オドゥトン1世の時代にポーランド王国が正式に誕生し、以降、ピャスト朝、ヤギェウォ朝と続く王朝時代が始まります。王権の強化とともに、教会との結びつきが国家体制に深く根を下ろしました。
ポーランド・リトアニア共和国の栄光
1386年、ポーランド王国とリトアニア大公国が同君連合(ヤギェウォ朝)を形成し、1569年には正式な国家連合「ポーランド・リトアニア共和国(ルブリン合同)」が成立しました。これは当時のヨーロッパ最大級の領土を誇る国家であり、政治的にも文化的にも繁栄の時代を迎えます。
国王と貴族(シュラフタ)による選挙王制、宗教寛容令(ワルシャワ連盟)、ヨーロッパでも先進的な議会制度(セイム)などが整備され、共和主義的要素を含んだ政治文化が花開きました。また、学術や芸術も隆盛し、多くの外国人留学生がクラクフ大学などに学びに訪れました。
国家分割と消滅、独立の回復
18世紀末、内政の混乱と隣国の圧力の中でポーランドは深刻な危機を迎えます。ロシア、プロイセン、オーストリアの三国によって、1772年・1793年・1795年と三度にわたる国家分割が行われ、ついにポーランドは独立国家として消滅しました。
以後123年間、ポーランドは外国の支配下に置かれますが、亡命政府や各地での蜂起(ワルシャワ蜂起、コシュチュシュコの反乱など)を通じて独立を模索し続けました。第一次世界大戦後、1918年にポーランドは再び独立を回復し、第二共和国として復活します。
戦争の悲劇と共産主義時代
1939年、ナチス・ドイツとソ連による独ソ不可侵条約に基づき、ポーランドは再び侵略され、第二次世界大戦が勃発しました。アウシュヴィッツに象徴されるホロコーストの舞台ともなり、ユダヤ人を中心に数百万人の命が奪われました。
戦後はソ連の衛星国としてポーランド人民共和国が成立し、共産党の一党独裁体制が敷かれます。統制経済、思想統制、政府への抗議活動に対する弾圧が続く一方で、反体制運動も根強く存在しました。
民主化とEU・NATO加盟までの流れ
1980年代に入ると、独立労働組合「連帯(Solidarność)」が誕生し、全国的な民主化運動へと発展します。1989年、円卓会議を経て自由選挙が実施され、共産主義体制は終焉を迎えました。この平和的な政権交代は東欧革命の先駆けとなり、以降の東欧諸国にも影響を与えました。
その後、ポーランドは市場経済への移行を進め、国際的な信用を回復。1999年にはNATOに、2004年にはEUに加盟し、ヨーロッパの一員としての地位を確立しました。
政治体制と国際関係
ポーランドは、民主主義と法の支配に基づく共和国であり、冷戦後の東欧において最も早く制度的転換を果たした国家の一つです。国家の統治構造は立法・行政・司法の三権分立により成り立ち、さらにEUやNATOへの加盟によって国際的な影響力も強めてきました。この章では、ポーランドの政治制度と国際関係を多角的に解説します。
大統領・首相・議会の役割と選挙制度
ポーランドの国家体制は立憲共和制であり、行政の長として首相が日々の政策執行を担い、国家元首である大統領は国防や外交、安全保障において重要な役割を持ちます。大統領は国民による直接選挙で選ばれ、任期は5年、再選は1回まで可能です。
首相は下院(セイム)における多数派の支持を得て大統領により任命され、閣僚とともに政府を構成します。議会は二院制で、下院(セイム)は460議席、上院(セナト)は100議席で構成され、いずれも4年ごとに総選挙が行われます。
選挙制度は比例代表制を基盤としており、多様な政党が競合する中で連立政権の形成が一般的です。国民投票制度も憲法に基づき設けられており、憲法改正や重大な国政問題に際して用いられることがあります。
与野党の特徴と政権交代の流れ
ポーランドの政治は冷戦終結後、社会主義から民主主義へと移行する過程で大きく変化しました。1990年代以降、旧体制に由来する左派政党と、「連帯」運動に起源を持つ中道右派政党が主に政権を争ってきました。
2000年代以降、政治の主軸となっているのは、保守ポピュリスト政党「法と正義(PiS)」と、中道リベラル系の「市民プラットフォーム(PO)」(現・市民連合KO)です。PiSは伝統的な家族観や国家主義を掲げ、カトリック的価値観を前面に出す一方、KOは市場経済やEUとの連携を重視する親欧州派です。
2015年から2023年までの8年間、法と正義が政権を握り、司法制度や報道機関への介入が問題視され、EUとの緊張が高まりました。しかし、2023年の総選挙では市民連合を中心とする野党連合が勝利し、ドナルド・トゥスク首相の下で政権交代が実現しました。
EUとの関係、NATO加盟と軍事戦略
ポーランドは2004年に欧州連合(EU)に加盟して以来、地域統合の枠組みにおける重要な一員として位置づけられています。EU構造基金や農業補助金を活用し、国内のインフラ整備や経済改革を推進してきました。
一方で、法の支配や司法の独立性をめぐる争点では、前政権時代にEUとの間に摩擦が生じ、欧州委員会からの制裁措置や復興基金の凍結といった対応を受けました。2023年以降、新政権はEUとの関係修復を最重要課題として取り組んでいます。
また、ポーランドは1999年にNATOに加盟して以来、東欧地域の安全保障において極めて重要な役割を果たしています。地政学的にロシアとの最前線に位置するため、米軍を含むNATO部隊が駐留しており、軍事演習や装備近代化も積極的に進められています。
ウクライナ支援、アメリカ・ロシアとの関係
2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、ポーランドは欧州で最も積極的にウクライナを支援している国の一つとなっています。武器供与、避難民の受け入れ、人道支援などあらゆる面で支援体制を構築し、2023年までに提供された軍事支援額は80億ユーロを超えました。
また、避難民の受け入れでは、ピーク時には100万人を超えるウクライナ人がポーランド国内に滞在し、教育、医療、雇用の面で社会的統合が進められています。EU諸国の中で最も受け入れ規模が大きく、その対応力の高さが国際的にも評価されています。
アメリカとの関係は安全保障の面で極めて密接であり、ポーランドは米国と戦略的パートナーシップを構築しています。最新兵器の導入や米軍の恒久基地設置など、対ロシア抑止の拠点としての地位が強化されつつあります。
一方、ロシアとの関係は歴史的にも政治的にも冷え込んでおり、特にウクライナ侵攻以降は外交関係を事実上断絶しています。
経済と産業の現状
ポーランドは中央ヨーロッパ最大級の経済規模を誇り、EU加盟以降、その成長は著しいものとなっています。労働力の質の高さ、地理的優位性、そして市場改革の成功が経済発展を支えてきました。この章では、ポーランドの経済状況と主要産業の動向について詳しく解説します。
GDPと成長の推移
ポーランドの国内総生産(GDP)は、2022年時点でおよそ6,546億ユーロに達しており、EU加盟以降の20年間で約3倍の規模に成長しました。1人あたりのGDPは約17,300ユーロで、依然として西欧諸国には及びませんが、東欧の中では高水準に位置しています。
特筆すべきは、2008年の世界金融危機の際にEU加盟国で唯一プラス成長を記録したという点です。その後も個人消費の拡大と外国直接投資(FDI)の流入に支えられ、安定的な成長を維持してきました。
ただし、2022年以降はウクライナ戦争やインフレ圧力の影響により、経済成長は一時的に鈍化しています。2023年の成長率は0%台にとどまりましたが、EU復興基金の活用や賃金上昇を背景に、今後の反発が期待されています。
主要産業(自動車、農業、ITなど)
ポーランドの産業構造は多角化が進んでおり、製造業、農業、IT、物流などが主要な柱となっています。
製造業では、特に自動車・機械関連産業が国際競争力を持ち、ドイツ系メーカーを中心に多くの自動車部品工場が国内に進出しています。加えて、家電や家具の生産でも世界的に有名で、IKEA向け製品の製造拠点としても機能しています。
農業も重要な産業で、小麦やライ麦、ジャガイモの生産、さらには豚肉や乳製品の加工輸出に強みがあります。ポーランドの農業はEU加盟後、補助金と技術導入により近代化が進み、ヨーロッパ内の主要な食品供給国となっています。
近年ではIT産業とアウトソーシング業務の成長が著しく、ワルシャワやクラクフなどの都市には多国籍企業の開発拠点やコールセンターが集まっています。ポーランド人の高度な理数系教育と英語力が、これらの業界を後押ししています。
輸出入の特徴と主要パートナー国
ポーランドの経済は外需主導型であり、輸出入がGDPに占める割合は非常に高いです。輸出品の中心は、自動車部品、電気機器、機械類、家具、食品、化学製品など多岐にわたります。一方、輸入では機械類、原材料、燃料、化学製品が主となっています。
最大の貿易相手国はドイツであり、輸出入ともに全体の約1/4を占める戦略的パートナーです。その他、チェコ、フランス、イギリスへの輸出、中国、イタリア、アメリカからの輸入が目立ちます。EU全体では、輸出の約76%、輸入の約51%が域内貿易に占められており、EU市場への依存度は高いと言えます。
また、ウクライナ戦争の影響でエネルギー供給構造の見直しが進み、ロシアからのガス依存を減らす動きが加速しています。これにより、バルト海沿岸のLNGターミナルやノルウェーからのパイプラインが重要視されるようになりました。
物価、賃金、失業率とその変化
ポーランドは長らく低コストの労働力が強みとされてきましたが、近年では最低賃金の引き上げと生活水準の向上が進んでいます。2024年の最低賃金は月額4,242ズウォティ(約15万円)となっており、10年前の約2倍の水準です。
一方、物価の上昇も顕著で、特に2022年から2023年にかけてインフレ率が15%を超える時期がありました。これに対応する形で中央銀行は政策金利を6.75%まで引き上げ、物価安定を目指す金融政策が続けられています。
失業率は2000年代初頭には20%近くに達していましたが、EU加盟後の雇用創出と経済成長により、近年では3%台というEU内でも最低水準を維持しています。特に若年層や都市部での雇用機会が拡大しており、労働市場の柔軟性が高まっています。
教育・医療・社会保障制度
ポーランドでは、教育、医療、社会保障といった公的サービスの整備が進んでおり、EU加盟後はさらなる近代化と国民生活の向上が図られています。特に教育制度の改革や医療インフラの拡充、少子高齢化に対応する社会保障政策は、現代ポーランド社会の重要課題と位置づけられています。この章では、国民の暮らしに直結する各制度について詳しく解説します。
義務教育の仕組みと高等教育の特徴
ポーランドでは義務教育は7歳から18歳までと法律で定められており、欧州諸国の中でも長めの教育義務期間が特徴です。現在の学校制度は2017年から段階的に導入された新制度に基づき、8年制の基礎学校(小・中一貫)の後に、普通高校(4年)または職業高校(5年)へ進学する形を取っています。
義務教育終了後の進路は大きく二つに分かれます。大学進学を目指す生徒は普通高校に進み、卒業後に「マトゥラ」と呼ばれる大学入学資格試験を受験します。一方、早期に職業スキルを身につけたい生徒は高等専門学校や職業訓練コースへと進学します。
有名大学と学問分野の傾向
ポーランドには歴史と伝統を誇る大学が数多く存在し、特にクラクフのヤギェウォ大学(創立1364年)は中欧最古の大学として世界的にも知られています。他にも首都のワルシャワ大学、ヴロツワフ大学、ポズナン大学などが国内外から高い評価を受けています。
学問分野では、医学、理工系、社会科学、国際関係、ITなどが人気であり、特にIT分野では優秀な人材の供給源として多国籍企業の注目を集めています。また、EU内のボローニャ・プロセスに準拠した学位制度(学士・修士・博士)を採用しており、エラスムス計画などの欧州間学生交流も盛んです。
医療制度(家庭医、保険制度)
ポーランドの医療制度は国民皆保険に近い形で整備されており、すべての国民が健康保険制度に加入しています。保険料は主に給与からの天引きにより賄われ、保険加入者は指定された医療機関で診療を受けることができます。
特徴的なのは家庭医(POZ)制度で、原則として患者は自ら選んだかかりつけ医を通じて診療を受けることになります。専門医の診察や検査にはこの家庭医からの紹介状が必要であり、医療資源の効率的な配分に寄与しています。
ただし、都市部と地方部で医療インフラの差があり、地方では人材不足や待機時間の長さが課題となっています。政府はデジタル医療の導入や遠隔診療の促進などを通じて、こうした格差の是正に取り組んでいます。
年金や子育て支援制度の内容と課題
ポーランドの年金制度は3本柱構成を基本としています。第一の柱は国による公的年金(NDC方式)、第二の柱は民間の積立型年金(任意加入)、第三の柱は個人年金口座などです。支給開始年齢は男性65歳、女性60歳で、これは欧州諸国の中では比較的低い水準です。
一方、急速な高齢化と出生率の低下により、年金財政の持続可能性が懸念されています。特に第二の柱にあたる民間年金基金が国庫に統合されたことで、国民の将来不安が広がる要因にもなっています。
子育て支援策としては、2016年に導入された「500プラス(Rodzina 500+)」が代表的です。これは18歳未満の子どもに対して、1人あたり毎月500ズウォティ(約15,000円)を支給する制度で、所得にかかわらず受け取れるユニバーサル給付です。
ただし、制度導入以降も出生率の大幅な回復にはつながっておらず、今後は保育サービスの拡充や女性の就労支援との連動が求められています。
文化と暮らしの魅力
ポーランドの文化は、長い歴史と多様な民族的背景を反映した豊かな伝統によって育まれてきました。芸術や文学においては世界的な功績を残し、宗教や家族を大切にする価値観は現代の暮らしにも色濃く残っています。この章では、ポーランドの文化と人々の生活の魅力について詳しくご紹介します。
文学・音楽・芸術(ショパンやノーベル賞作家)
ポーランドはヨーロッパでも有数の文学と音楽の伝統国です。19世紀の詩人アダム・ミツキェヴィチをはじめ、ポーランド文学は常に時代の精神を映し出してきました。近年では、ノーベル文学賞受賞者を5人輩出しており、特にチェスワフ・ミウォシュ、ヴィスワバ・シンボルスカ、そして2018年に受賞したオルガ・トカルチュクは世界的に評価されています。
音楽では、世界的ピアニスト兼作曲家のフレデリック・ショパンが最も有名です。ショパンの作品は、ポーランドの民族的旋律とロマン主義的な感情表現が融合したものであり、今も国内外で愛され続けています。5年ごとに開催されるショパン国際ピアノコンクールは、世界三大音楽コンクールの一つとして注目されています。
美術の分野では、歴史画の巨匠ヤン・マテイコや20世紀の前衛芸術家タデウシュ・カントールなど、多くの芸術家が世界的に活躍してきました。また、ポーランド・ポスター美術や演劇文化も国際的な評価を受けています。
宗教行事や祝祭日、国民性の特徴
ポーランドはヨーロッパで最もカトリック信仰が深く根付いた国の一つです。復活祭(イースター)やクリスマスは国民的な祝祭として祝われ、家庭では伝統的な料理や儀式が受け継がれています。復活祭前の「聖なる土曜日」には、かごに入れた食べ物を教会で祝福してもらう風習があり、家族の絆を確かめる重要な機会となっています。
国の祝日としては、5月3日の「憲法記念日」や、11月11日の「独立記念日」があり、愛国心を象徴する行事として国中で式典やパレードが行われます。また、夏至祭や秋の収穫祭など地域に根ざした民俗行事も多く残されており、農村部では今も季節ごとの行事が生活の一部として大切にされています。
ポーランド人の国民性は家族志向、勤勉、愛国的であり、礼儀正しく客をもてなす文化が根付いています。外国人にも温かく接する傾向があり、伝統とモダンが調和する社会風土が魅力です。
食文化(ピエロギ、ビゴス、ウォッカなど)
ポーランド料理は素朴ながらも栄養豊かで滋味深い家庭料理が多く、寒冷な気候に適した調理法と保存技術が発達しています。中でも国民的料理として知られるのがピエロギで、これはジャガイモやチーズ、キャベツ、果物などを包んだポーランド風の餃子です。茹でたり焼いたりして、食卓に並びます。
また、ビゴス(狩人のシチュー)は発酵キャベツ(ザワークラウト)と肉類、キノコなどを長時間煮込んだ料理で、冬場の定番です。スープ類では、ライ麦の発酵液を使った「ジュレック」や、ビーツのスープ「バルシチ」など、酸味と旨味のバランスが取れた味わいが特徴です。
飲料面では、ポーランドはウォッカの本場としても知られています。特にバイソングラスを浸したズブロッカや、上質な穀物由来のショパン・ウォッカなどが人気です。また、ビールや果実から作られる自家製リキュールも家庭で親しまれています。
家族・地域社会とのつながり
ポーランドの社会では、家族が最も重要な社会単位とされています。世代を超えた同居や、祖父母と孫の関係が密接であることが一般的で、週末や祝日には家族が一堂に会して食卓を囲む文化が根強く残っています。
地域社会の結びつきも強く、都市部でもご近所付き合いや地域イベントが活発に行われています。地方の村では、収穫祭や宗教祭を通じて地域全体が一体となる文化があり、共同体の中で育まれる信頼と連帯感が今も健在です。
近年は都市化や少子化、若者の海外移住などにより伝統的な家族構造の変化が進んでいますが、それでもポーランド人の生活の根底には家族と地域への深い愛着が息づいています。
観光と現代社会の課題
ポーランドは、美しい自然と豊かな歴史を併せ持つ観光地として世界中の旅行者に注目されています。一方で、現代社会では人口減少、難民対応、人権保障など多くの課題にも直面しています。この章では、観光資源の魅力とともに、ポーランドが抱える現代的な社会問題とその展望について取り上げます。
世界遺産や人気観光地の紹介
ポーランドにはユネスコ世界遺産が17件(文化遺産16件、自然遺産1件)登録されており、その多くが中世から続く街並みや宗教建築、歴史的施設です。代表的な観光地には、かつての王都クラクフの歴史地区、ワルシャワ旧市街、そして中世の巨大な要塞マルボルク城などがあります。
また、ヴィエリチカ岩塩坑は地下数百メートルに広がる塩の彫刻と礼拝堂で有名で、多くの観光客を魅了しています。そして第二次世界大戦の悲劇を今に伝えるアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所跡は、負の世界遺産として世界中の人々が訪れる場所です。
自然遺産では、ビャウォヴィエジャ原生林がポーランドとベラルーシにまたがる広大な森林として保護されており、ヨーロッパバイソンをはじめとする希少な動植物が生息しています。
ウクライナ難民受け入れと移民政策
2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、ポーランドはヨーロッパ最大規模のウクライナ難民受け入れ国となりました。戦争初期には1日に数十万人規模で難民がポーランドに流入し、その多くが女性や子どもでした。ピーク時には、国内に100万人以上のウクライナ人が滞在していたとされます。
政府は迅速に一時滞在許可や就労資格の付与を行い、学校や医療機関も柔軟に対応しました。また、多くの市民が自発的に支援物資を提供したり、自宅に避難民を受け入れたりするなど、社会全体が連帯して行動したことが高く評価されています。
一方で、住宅不足や社会保障への負担が課題となっており、長期的な定住に向けた政策の整備が求められています。また、中東やアフリカからの難民受け入れには消極的だった過去もあり、人道支援の「二重基準」が国際的に議論されています。
女性やLGBTQ+の人権問題
ポーランドはEU加盟国の中でも保守的な価値観が根強い国とされており、特に中絶や性的マイノリティに関する人権課題が国際的に注目されています。
2020年には、憲法裁判所の判断により胎児の障害を理由とする中絶が違憲とされ、事実上ほとんどの中絶が禁止されました。これに対して、女性団体や若者を中心に数十万人規模の抗議デモが全国で展開され、政権に大きな圧力をかけました。
また、LGBTQ+の権利保護においても、いくつかの自治体が「LGBTイデオロギー無宣言地域」を採択したことが欧州議会や人権団体から強い批判を受けました。近年は市民の意識が徐々に変化しつつあり、プライドパレードの開催や法的保護を求める声が広がっています。
社会の変化と今後の展望
ポーランドは、少子高齢化、都市と地方の格差、教育と雇用のミスマッチなど、先進国共通の課題に直面しています。若年層の一部は西欧諸国への出稼ぎを選択し、逆に外国人労働者の流入も増加しており、労働市場の構造変化が起こっています。
社会的には都市部を中心にリベラルな価値観が広がり、女性の社会進出やジェンダー平等に関する議論も活発化しています。一方で、地方では伝統的な価値観が根強く、社会の二極化が進行しています。
政治的には、2023年の政権交代を機にEUとの協調路線が再構築されつつあり、法の支配や報道の自由など民主主義の基本原則の回復が期待されています。また、軍事・エネルギー分野でも独立性と持続性を強化するための改革が進行中です。